今年の健やか住まい方シンポジウムでは音振動環境部会の発表が高い人気を博しました。音や光は自然の物として多くのメーカーやビルダーが手付かずの状況にあるようです。当協会ではこれらを踏まえ、長年にわたり音や光と健康的な暮らし方との関連を研究活動しております。
そんな時に興味深い記事を最新の健康ニュースで見つけましたのでご紹介します。
(http://kenkounews.rotalaallichii.com/posts_list/)
音楽を聴くとよく眠れる人とそうでない人
(2019年6月) "Scientific Reports" に掲載されたスイスの研究によると、音楽を聴くとよく眠れる人とそうでない人がいるようです。
研究の背景
これまでの研究は、音楽により主観的な睡眠の質が向上するという点では一致していますが、音楽の客観的な睡眠の質への効果に関してはそうでもありません(*)。 そこで今回の研究では、その辺りのことを調べることにしました。
(*) 音楽の睡眠への効果を計器で調べた研究では、「音楽で睡眠の質が向上した」という結果になった研究と「向上しなかった」という結果になった研究とが混在している。
研究の方法
27人の女性に、90分間の昼寝を(たぶん別々の日に)2回してもらいました。 2回のうち1回は音楽を聴いたあとで、そしてもう1回は文章の朗読を聴かされたあとで昼寝をしてもらいました。
音楽
Lee Bartel 博士が作曲した "Drifting into Delta" という曲を聴きました。
研究グループがネットを漁って見つけてきたいくつかの曲の中から15人の被験者に実際に聴いて眠って選んでもらったところ、この曲がいちばん「眠れる」と好評だったのです。
文章
男性が通常の速度とイントネーションで鉱床に関する文章を朗読したテープを聞かされました。
結果
主観的な睡眠の質
被験者たちは、音楽を聴いたときのほうが文章朗読を聞かされたときよりも「よく眠れた」と回答しました。
客観的な睡眠の質
音楽を聴いたときのほうが、90分間の昼寝時間にN1ステージ(睡眠と覚醒の境目に位置する段階。たぶん浅い眠りということでしょう)が占める時間が減っていました(8分に対して6.1分)。
また一部の被験者に限り、音楽を聴いたときには文章朗読を聞かされた場合に比べて、徐波睡眠(最も深い眠り。ノンレム睡眠)に費やされる昼寝時間が46%増加(20分に対して31分)していました。 徐波睡眠は記憶固定化に関与すると考えられています。
「一部の被験者」の正体
上記の「一部の被験者」とは被暗示性(suggestibility)が低い人のことです。
"suggestibility" とは
"suggestibility" には色々意味があるようで、Wikipedia を見ると「催眠にかかりやすい人」とか「人の話を鵜呑みにする人」とか「会話相手の話を信じたかのように振る舞う人」などの意味が記載されています。
今回の研究論文では「プラシーボが効きやすい人」と説明されてもいます。
これだけ色々と意味があると、「今回の研究論文ではどの意味で使われているのかしら?」と不安になってしまう方も少なからずいらっしゃると思います。
しかしご安心ください。
このたびわたくしは、論文要旨でサクッと簡単に済ませることなくブラウザのページ内検索機能を活用して論文全体にまで調査の手を広げ、今回の研究で "suggestibility"がどういう意味で使われているのかを見つけ出して参りました!
それでは発表いたしましょう。
今回の研究で "suggestibility" は...
「催眠にかかりやすい人」の意味で使われています。 "hypnotic suggestibility" と明記されているので間違いございません。
「催眠にかかりやすい人」の調べ方
しかし、研究グループは果たして一体どのようにして "hypnotic suggestibility(催眠における被暗示性)" を把握したのでしょうか? この最大の疑問を解決すべく、私は再びブラウザの(以下略)
(中略)
(前略)被験者全員にテープ録音の催眠術を聴かせて、どれぐらい催眠術に侵されたかを各自に尋ねました。 そして、被験者を被暗示性が高い(HS)14人と被暗示性が低い(LS)13人に分けました。
"N1 min"がN1ステージに費やされた昼寝時間のグラフで、"SWS increase"が徐波睡眠に費やされた時間を文章朗読の場合を基準として比較したグラフです。
したがって、"N1 min" はグラフの棒が短いほうが、そして "SWS increase"はグラフの棒が長いほうがグッスリ眠れたということになります。
で、グラフ下部の "LS" と "HS" というのは、それぞれ "Low Suggestibility" と "High Suggestibility" の略称です。
そして、黒の棒が文章朗読を聞いて昼寝した場合を示し、灰色の棒が音楽を聴いて昼寝した場合を示しています。
解説
ええ、まだ続きます。
今回の記事は長いです。 この記事を書き始めてそろそろ4時間になります。 私も疲れてきました。
4時間とかかかるのを一気に書き上げるのは無理だと思うんですけど、途中で休憩とかできないタチなんですよね。
今回の研究は研究グループの予想に反した結果となりました。 研究グループはHSの(被暗示性が高い)人のほうが音楽でぐっすり眠れるだろうと考えていたのです。
今回の研究では試験前に被験者に向かって「文章朗読よりも音楽を聴いたときのほうがぐっすり眠れるだろうと考えています」という趣旨のメッセージを伝えていたので尚の事、研究グループは「HSの人はそのメッセージを素直に信じ込んで音楽を聴いたときにスヤスヤと眠るだろう」と予期していました。
今回の結果はわたくしにとっても意外でした。 その証拠に、当初わたしは『「一部の被験者」の正体』のセクションの冒頭で『上記の「一部の被験者」とは被暗示性(suggestibility)が高い人のことです』と論文に書かれているのと真逆のことを書いていました。
「被暗示性の高い人」が音楽で眠りやすくなるだろうと思いこんでいたのです。
研究グループは今回の結果について:
- HSの人に関しては、「もっと催眠術めかしたほうが音楽の睡眠への効果が高かったかもしれない」
- そしてLSの人に関しては、「(文章朗読に比べて)音楽を聴くのは言葉で操られる恐れがないからリラックスしやすかったのかもしれない。
LSの人は自分で音楽を選ぶと(他人の作為が介在しないから)なおリラックスできるかもしれない」
という感じのことを述べています。
2018年度の音振動環境部会も光視環境部会も健康と関係を上手く検証する研究発表をしております。
詳しくは「健やか住まい方白書」をご覧ください。
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